本谷知彦連載第4回:コスメEC市場の状況と展望~伸びしろが大きいコスメEC市場 その理由とは?~

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本谷 知彦(もとたに ともひこ)
株式会社デジタルコマース総合研究所 代表取締役 ECアナリスト
シンクタンク大和総研にて国内外の産業調査・コンサルティング業務にチーフコンサルタントとして従事。EC業界のスタンダードな調査レポートである経済産業省の電子商取引市場調査を2014年から2020年にかけて7年連続で責任者として手掛ける。2021年末に同社を退職し2022年初に株式会社デジタルコマース総合研究所を設立。EC市場の調査研究はもとより、データに基づいた消費財のマーケット分析や事業戦略のアドバイスに関する実績多数。
第2回目のコラムでは、2024年のEC市場規模の予測を行いました。続く第3回ではカテゴリー別の掘り下げとしてアパレルEC市場にフォーカスし、ECの状況を説明しました。今回はカテゴリーの掘り下げの第二弾としてコスメECを取り上げたいと思います。
経済産業省の電子商取引市場調査によれば、2023年の「化粧品・医薬品」のEC市場規模は9,709億円と1兆円を下回っており、食品ECやアパレルEC等と比較しその規模は大きくありません(※同省発表の市場規模の9割以上はコスメであり医薬品はごくわずかです)。またEC化率は8.57%と全体平均値の9.38%よりも低い値です。しかし後述の理由によりコスメ分野のECは伸び代があると私は見ています。
なお、本コラムでは基礎化粧品(スキンケア)、およびメイクアップ化粧品を対象とし、ボディケア、ヘアケア、ネイル等は含めずに算出しています。予めご了承ください。
経済産業省が2024年のEC市場規模を発表するのは本年の夏頃と思われます。発表される数値は本コラムと異なることも想定されますが、Nint ECommerceを用いた速報値として、本コラムの内容が皆様のEC事業にとって有益なものとなりますことを心より願っております。
コスメ市場の特徴は多様な販売チャネル
はじめにコスメ市場全体の特徴について整理しておきましょう。私は、コスメが他の商品カテゴリーと異なる特徴として「販売チャネルの多様性」を挙げたいと思います。コスメの販売チャネルは、EC以外にデパート、専門店、ドラッグストア、コンビニ、(EC以外の)通信販売、訪問販売といったように多彩です。たとえば通信販売や訪問販売は既に1970年頃から始まっており、古くから販売チャネルは多様化していました。
冒頭に記載の通り、2023年の「化粧品・医薬品」のEC市場規模は9,709億円と高くなく、EC化率も8.57%と低い値です。このことは、コスメの販売チャネルが多様であることを物語っています。ただしコスメ各社の動向をウォッチしていると、コロナ以降業界全体でECへのシフトが鮮明になっており、EC市場規模の伸び代はあると私は見ています。
また、コスメ市場への参入企業は資生堂といったコスメを主力とする企業以外に、海外輸入系、日用品系、食品系、医薬系、アパレル系など様々であり、その点も特徴の一つです。今後もコスメ分野への新規参入はあると想定されますが、その際、販売チャネルとしてECはハードルが低いため、コスメEC市場としては追い風でしょう。その反面、コスメEC市場の競争状態はより激化するとも予想できます。
コスメの支出金額はコロナ以降横ばい
続いてECか実店舗かを問わず、個人消費におけるコスメの支出金額の変化を押さえておきましょう。次のグラフは、1家計あたりのコスメの年間支出金額に関する2014年から2024年までの推移です。繰り返しになりますが、ここでいうコスメとは、基礎化粧品(スキンケア)、およびメイクアップ化粧品を対象とし、ボディケア、ヘアケア、ネイル等は金額には含まれていません。
コロナ前までは、12,000円~13.000円の間で推移していましたが、コロナによって2020年には10%以上支出が減少しました。その後微減が続いた後、2023年には僅かに増加しましたが、総じてコロナ以降は横ばいが続いています。データ上、コロナ前の2019年の水準まで回復していませんが、物価上昇という背景もありますので、2019年の水準である13,000円程度までは、今後2,3年の間に回復すると見てよいかもしれません。

3大ECモールでの流通総額の伸び率は+13.2%と大幅増
Nint ECommerceを用いて楽天市場、Amazon、Yahoo!ショッピングにおける2024年のコスメの流通総額を計算したところ、この3大ECモール合計で前年比+13.2%と大幅増となりました。この値は第3回でお伝えしたアパレルとほぼ同じ伸び率です。カテゴリー超越での3大ECモール合計の流通総額の伸び率は+1.3%であったので、それと比較すると、コスメは大きく伸びていることになります。
月ごとに前年(2023年)同月に対する伸び率を計算してみたところ、次のグラフの通りとなりました。11月を除いて全てプラスとなっており、好調であったことがわかります。11月がマイナスになった理由ですが、サンクスギビングデーの日付(11月第4木曜日)が28日と2023年よりも遅く、それに伴いブラックフライデー(サンクスギビングデーの翌日)の開始日が遅れたことが原因と思われます。
また、7月は前年同月比が44.6%と大きな伸びを示しています。これは恐らくAmazon Prime Dayによる効果が大きと思われます。2023年7月にもAmazon Prime Dayは開催されていましたので、2024年7月の伸びの高さは、コスメECの勢いを象徴するような出来事であったと言えるのではないでしょうか。

さらに考察を深めるべく、Nint ECommerceを用いて基礎化粧品系、メイク系に分けて3大ECモールの流通総額を計算したところ、年間での伸び率は前者が13.6%、後者が12.3%と大差はなく、共に伸びていることがわかりました。
ただし月別の推移を見てみると相違点が見られます。グラフの通り1月から6月までは両者共にプラスではありますが、それぞれ月によって伸び率に違いが見られます。7月は共に大きく伸びていますが、先述の通りAmazon Prime dayの影響によるものと思われます。また8月以降について、グラフの形状は似通っていますが、基礎化粧品系の方がメイク系よりも高い数値となっています。

コスメECの展望
コスメEC市場の今後を予測する上で、あらためて以下の理由から同市場は伸びしろがあると私は予想しています。
- EC化率が8.57%(2023年)と決して高くなく、数字上はコスメEC市場規模には拡大の余地がある
- 古くからコスメ業界は販売チャネルが多様化していたが、事業者の動向を見てるとコロナ以降ECへのシフトが鮮明になっている
- 今後も新規参入が予想されるが、その際ECはハードルが低いため、参入形態としてECが採用される確率が高いと予想(半面、競合は激化)
- 男性用コスメの市場規模が小さいが、近年若い男性によるコスメ利用が活発化してきており、今後の拡大が期待できる
また足元の状況としてNint ECommerceによる2024年の状況を見てみると、先述の通り3大ECモールの伸び率は前年比で13.2%でした。月別で見てもほぼ全面的に前年同月比プラスで推移しており、また基礎化粧品系、メイク系共に同じ状態でもあります。この勢いならば2025年のコスメEC市場も上向きで推移するのではないでしょうか。上述の通りコスメECには伸びしろがありますので、その流れに乗って、コスメEC市場規模のさらなる拡大を期待したいと思います。
Nint ECommerceに関して

日本国内のEC市場の約7割を占める3大ECモール(楽天市場、Amazon、Yahoo!ショッピング)の売上・販売数量をモール別、ジャンル別、ショップ別、商品別に分析できる画期的なツールです。Nint ECommerceを活用いただくことで、以下のイベント対策を効率的にサポートしています。
活用例
商品在庫(SKU単位)の拡充
・競合価格を見ながら自社の販売価格を設定
・競合のポイント倍率を見ながら自社のポイント倍率を設定
・商品名(商品情報)での差別化
・検索露出(RPPなど)の強化
Nint ECommerceを活用することで、ECビジネスチャンス創出に役立ちます。ご興味のある方は、ぜひ下記リンクよりNint ECommerceの詳細をご確認ください。
■調査概要・免責事項
・本調査は、Nint ECommerceを用い、国内の3大ECモールである楽天市場、Amazon、Yahoo!ショッピングを対象として調査しました。
・レポートを利用することにより生じたいかなるトラブル、損失、損害等について、当社は一切の責任を負いません。
■調査対象
Nint推計データ
Nint推計データは、AIやクローリングなどの技術により⽇本国内の3⼤ECモールで販売される商品の売上⾦額・販売数量を⾼精度に推計したデータに、サイト内でのプロモーションデータ等を加えた、EC市場の総合的な分析を可能にするビッグデータです。
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【出典:「本谷知彦連載第4回:コスメEC市場の状況と展望~伸びしろが大きいコスメEC市場 その理由とは?~」(2025年4月27日公開)】
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