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本谷知彦連載第3回:アパレルにおける消費者の“EC回帰”の検証~Nint ECommerceで可視化するアパレルECの現状と展望~

#ECデータ #アパレル業界

この記事を書いた人

本谷 知彦(もとたに ともひこ)
株式会社デジタルコマース総合研究所 代表取締役  ECアナリスト

シンクタンク大和総研にて国内外の産業調査・コンサルティング業務にチーフコンサルタントとして従事。EC業界のスタンダードな調査レポートである経済産業省の電子商取引市場調査を2014年から2020年にかけて7年連続で責任者として手掛ける。2021年末に同社を退職し2022年初に株式会社デジタルコマース総合研究所を設立。EC市場の調査研究はもとより、データに基づいた消費財のマーケット分析や事業戦略のアドバイスに関する実績多数。

第2回目のコラムでは、2024年のEC市場は前半不調であったものの、後半に盛り返したと説明しました。そこで次のアクションとしてカテゴリー別に掘り下げてみようと考え、まずはアパレルをテーマとして、Nint ECommerceその他のデータに基づいてアパレルECの状況を可視化することとしました。

私は自身の経験上、EC市場の変化を適切にキャッチアップする上で、アパレルECはその先行指標のような存在だと捉えています。つまりアパレルECの動きは、EC市場の今後を予想する上で重要な意味を持つということです。よってアパレル業界以外の方でも、本コラムの内容を是非参考にしていただければ幸いです。

なお、本コラムではインナー、アウターといった“身に着けるもの”を対象とし、靴、バッグ、帽子、アクセサリー等の服飾雑貨は含めずに算出しています。予めご了承ください。

経済産業省が2024年のEC市場規模を発表するのは本年の夏頃と思われます。発表される数値は本コラムと異なることも想定されますが、Nint ECommerceを用いた速報値として、本コラムの内容が皆様のEC事業にとって有益なものとなりますことを心より願っております。

アパレルの支出金額は上昇の兆し

はじめに、ECか実店舗かを問わず、個人消費におけるアパレルの支出金額の変化を押さえておきましょう。次のグラフは、1家計あたりのアパレルの年間支出金額に関する2014年から2024年までの推移です。繰り返しになりますが、ここでいうアパレルとはインナー、アウターといった“身に着けるもの”が対象であり、靴、バッグ、帽子、アクセサリー等の服飾雑貨は金額には含まれていません。

長期トレンドとして、アパレルの支出金額は逓減傾向となっています。その大きな理由にはファストファッションの台頭が挙げられます。そして2020年はコロナがアパレル業界を直撃し、グラフの通り支出金額が大幅に減少しました。その後低空飛行が続いていましたが、2024年には71,062円と上昇しています。

2024年に上昇した理由ですが、物価高騰の影響、およびファストファッション以外の高価な衣服のニーズ上昇があるのではないかと私は想像してます。ただしこれはあくまでも現時点での仮説です。2024年の単年だけでは判断がやや困難であり、今後2、3年の結果をもとに検証したいと考えています。

3大ECモールでの流通総額の伸び率は+13.12%と大幅増

Nint ECommerceを用いてAmazon、楽天市場、Yahoo!ショッピングにおける2024年のアパレルの流通総額を計算したところ、この3大ECモール合計で前年比+13.12と大幅増となりました。第2回目のコラムでは、カテゴリー超越での3大ECモール合計の流通総額の伸び率は+1.25%であったことをお伝えしました。それと比較すると、アパレルの伸び率の大きさには驚かされます。

また、月ごとに前年(2023年)同月に対する伸び率を計算してみたところ、次のグラフの通りとなりました。1月~6月までの上期は好不調の波が続きましたが、7月以降は年末にかけて右肩上がりで流通総額が増加していることがわかります。第2回目のコラムでも、流通総額全体で同様の傾向が見られたことをお伝えしていました。アパレルでも同様の傾向であり、かつその増加幅が大きいのが特徴的です。

ここで、さらにもう一歩考察を深めるべく性別で数値を計算してみたところ、次の通り男女で明確な違いがあることがわかりました。男性の流通総額は月ごとの動きが激しい一方、女性は男性と比較すると緩やかな動きとなっています。

この現象を単純に捉えるならば、2024年は男性による3大ECモールでの購買行動が女性よりも積極化したということになります。少し異なる見方を付け加えるとすると、消費者のリアル回帰によってEC市場全体にマイナスの影響が見られた状況であっても、女性は既に3大ECモールでアパレルの買い物を行っていたとも言えるでしょう。ともあれ男性と女性で数値の差は大きいものの、共に下期には大きく上昇していることに変わりはなく、消費者がECに戻ってきている様子が理解できます。

個別企業毎に異なる売上高の動き

続いてアパレル業界の個別企業のEC売上の動きについてチェックしてみましょう。ここでは東京証券取引所に上場している以下の大手アパレル事業者を例に、それぞれのEC売上の伸び率の変化を計算してみました。2024年の下期に3大ECモールの流通額が伸びていますが、個別企業の動きを見てみると、以下のタイプに分類することができます。

【個別企業毎の動きに見るタイプ分類】

① 2024年にマイナスからプラスに転じたケース
② プラスを継続していたが2024年になってさらに大きく伸びたケース
③ 消費者のリアル回帰の影響を受けるもののプラスをキープし続けているケース
④ 環境の変化に関係なくフラットにEC売上が伸び続けているケース

上述の通り、2024年の下期に3大ECモールの流通額が伸びていますが、企業毎に見てみるとその動き方は様々であることがよく理解できます。なお、いずれの企業も独自に戦略を展開しており、環境の変化は別として企業努力を継続されている点についてご認識いただければと思います。

2024年にマイナスからプラスに転じたケース

ファーストリテイリングは2024年2月まで4四半期連続で前期比割れでしたが、2024年3月以降はプラスに転じています。またTSIは2023年9月から2024年2月までは前期比で10%以上のマイナスでしたが、2024年6月以降はプラスに転じています。先に説明した3大ECモールの流通総額の動きに近いトレンドです。

プラスを継続していたが2024年になってさらに大きく伸びたケース

ユナイテッドアローズはコロナ禍でも前年同期比で一桁のプラス成長を継続していましたが、2024年4月以降は2四半期連続で20%以上の伸び率を記録しています。まさに2024年に大きく伸びたケースです。

消費者のリアル回帰の影響を受けるもののプラスをキープし続けているケース

アダストリアは2023年5月まで大きく成長し、その後消費者のリアル回帰でECの売上は小幅な伸び率に落ち着きました。しかし決してマイナスに転じることなくプラスを継続している点が特徴的です

環境の変化に関係なくフラットにEC売上が伸び続けているケース

オンワード、およびZOZOは、コロナや消費者のリアル回帰といった環境の変化に関係なく、EC売上(※ZOZOはZOZOTOWNの流通総額)はフラットに伸びています。それぞれに企業努力があるものと推測しますが、①~③とは違った動きとして興味深く思います。

※以上、全て各社の決算説明資料を基に作成

アパレルECの展望

3大ECモールの流通総額が2024年の下期に伸びていると述べました。また、アパレル各社のEC売上高(ZOZOの場合は流通総額)については上述の通り4つのタイプに分類できますが、いずれについてもEC売上高は上向いています。以上のことから、アパレルECの売上高は上昇基調にあると私は見ています。

アパレルは素材の質感や着心地、サイズのフィット感といった観点から、実物を確認しないと買いづらいと考える消費者ニーズがあります。そのようなニーズが見られる中で、コーディネートアプリの一般化やスタッフDX系サービスの浸透によって、以前よりもECで買いやすい環境が整っています。購入経験のある商品であれば消費者は既に商品特性を熟知していますので、ECによるリピートオーダーは消費者にとって便利でしょう。

また、在庫管理のレベルアップによるBOPIS(Buy Online Pick-up In Store)の利用者の増加、および以前よりも返品のしやすさが増している点もECでの購入のハードルを下げています。加えて言えば、メルカリのGMVの3割以上はアパレルであり(同社決算説明資料より)、“失敗してもフリマで売ればよい”といった消費者心理から、気軽にECで購入しようとする消費者が一定数いると思われます。経済産業省の電子商取引市場調査ではアパレルのEC化率は22.88%(2023年)ですが、以上のようにアパレルのECを後押しする材料が増えていますので、長期的にはEC化率30%を目指す動きになると私は予想しています。

Nint ECommerceに関して

日本国内のEC市場の約7割を占める3大ECモール(楽天市場、Amazon、Yahoo!ショッピング)の売上・販売数量をモール別、ジャンル別、ショップ別、商品別に分析できる画期的なツールです。Nint ECommerceを活用いただくことで、以下のイベント対策を効率的にサポートしています。

活用例

商品在庫(SKU単位)の拡充
 競合価格を見ながら自社の販売価格を設定
 競合のポイント倍率を見ながら自社のポイント倍率を設定
 商品名(商品情報)での差別化
 検索露出(RPPなど)の強化

Nint ECommerceを活用することで、ECビジネスチャンス創出に役立ちます。ご興味のある方は、ぜひ下記リンクよりNint ECommerceの詳細をご確認ください。

■調査概要・免責事項
・本調査は、Nint ECommerceを用い、国内の3大ECモールである楽天市場、Amazon、Yahoo!ショッピングを対象として調査しました。
・レポートを利用することにより生じたいかなるトラブル、損失、損害等について、当社は一切の責任を負いません。

■調査対象
Nint推計データ
Nint推計データは、AIやクローリングなどの技術により⽇本国内の3⼤ECモールで販売される商品の売上⾦額・販売数量を⾼精度に推計したデータに、サイト内でのプロモーションデータ等を加えた、EC市場の総合的な分析を可能にするビッグデータです。

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【出典:「本谷知彦連載第3回:アパレルにおける消費者の“EC回帰”の検証~Nint ECommerceで可視化するアパレルECの現状と展望~」(2026年2月27日公開)】
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