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本谷知彦連載第2回:【最速】2025年のEC市場規模予想 ~経産省EC市場調査の元責任者がNint ECommerceで推計~

この記事を書いた人

本谷 知彦(もとたに ともひこ)
株式会社デジタルコマース総合研究所 代表取締役  ECアナリスト

シンクタンク大和総研にて国内外の産業調査・コンサルティング業務にチーフコンサルタントとして従事。EC業界のスタンダードな調査レポートである経済産業省の電子商取引市場調査を2014年から2020年にかけて7年連続で責任者として手掛ける。2021年末に同社を退職し2022年初に株式会社デジタルコマース総合研究所を設立。EC市場の調査研究はもとより、データに基づいた消費財のマーケット分析や事業戦略のアドバイスに関する実績多数。

メディアが発信するニュースを振り返ると、2024年は消費者のリアル回帰が継続していると感じさせる記事を多く目にしました。当初の想定通りにECでの売上が伸びなかった事業者も多いのではないかと推測します。しかしふと気づいてみると「アフターコロナ」という単語を耳にする機会は減ってきているのではないでしょうか。とすれば、消費者のリアル回帰に変化の兆しがあるかもしれません。

そのような想いもあって、2025年が始まった今、どこよりも早く2024年のEC市場規模の推計にトライしたいと思います。尚、推計にはNint ECommerceを用います。EC市場に占める楽天市場、Amazon、Yahoo!ショッピング上での売上高(流通総額)の比率は約7割とされています。高い比率であることから、それらの推計売上高をデータとして格納するNint ECommerceを用いれば、ECモールを含むEC市場規模の全体を高い精度で推計することが可能と私は考えています。

経済産業省が2024年のEC市場規模を発表するのは本年の夏頃と思われます。発表される数値は本コラムと異なることも想定されますが、Nint ECommerceを用いた速報値として、本コラムの内容が皆様のEC事業にとって有益なものとなりますことを心より願っております。

3大ECモールの流通総額の伸び率は+1.25%

Nint ECommerceを用いて計算したところ、2024年の3大ECモールの流通総額は前年比で1.25%となりました。この数値はあくまでも3大ECモールに限った値です。しかしながら、3大ECモールの流通総額は国内の物販系BtoC-EC市場規模(以降、EC市場規模)全体の7割を占めているため、この伸び率は当該EC市場規模全体の伸び率を予想する上で重要なデータになります。1.25%という結果から、2024年のEC市場規模は微増に止まっていることが予想されます。

続いてNint ECommerceによる計算結果を月別に分解し、1年を通しての動きについて見てみましょう。次のグラフの通り、1月は-5.64%、3月は-7.06%、5月は-6.94%、6月は-5.10%といったように、年の前半は前年割れの月が4か月もありました。一方で年の後半は11月のみ前年割れとなっており、前半よりも好調であったことがわかります。つまり年間では1.25%と微増ですが、細かく見てみると、やや不調な前半に対し後半盛り返した年であったと見ることが出来ます。

尚11月が-5.38%となった理由ですが、2024年はサンクスギビングデーの日付(11月第4木曜日)が28日と2023年よりも遅く、それに伴いブラックフライデー(サンクスギビングデーの翌日)の開始日も遅くなりました。その結果2024年の11月に限って言えば、セール日数が2023年よりも少なくなったことが影響していると考えられます。その証拠に12月は12.44%と大きな伸びを示しています。よって、やはり後半は全体的に好調であったとあらためて言えるでしょう。

(2024年)3大ECモールの流通総額に関する前年同月比の推移 出典:Nint ECommerceをもとに作成

宅配便取り扱い総数の伸び率は推定で+1.5%

別の角度からEC市場規模の伸び率について考察してみたいと思います。ヤマトホールディングス(ヤマト運輸)、SGホールディングス(佐川急便)、日本郵便の各社はそれぞれの宅配便取り扱い個数をWebサイト上で公開しています。ECで購入された商品は宅配便によって配送されますので、この宅配便3社の発表データを集計して前年と比較することで、EC市場規模の伸び率を予測することが出来ます。尚、当然ながら宅配便はECだけの用途とは限りません。正確な比率は不明ですが、いくつかの情報に基づき私は宅配便取り扱い総数のうち7割程度がECによるものと推定しています。

2024年の3社の発表データを集計したところ、2024年は前年から0.5億増えて46.8億個、伸び率は+1.15%となりました(下記①)。続いてECは全体の7割程度との私の推定に基づき、加えてEC以外の宅配便個数は前年と全く同じと仮置きした上で、ECでの正味の伸び率を算出してみたところ、+1.64%となりました(下記②)。

ここで注意点ですが、これは宅配便3社に限っての予想値です。EC業界ではAmazonを筆頭に自社配送が増えてきていると考えられています。この点を考慮すれば、EC市場全体での宅配便取り扱い総数の伸びを1.5%程度と私は予想します(下記③)。Nint ECommerceが1.25%ですので、近似値が得られたと考えます。

①宅配便3社の取り扱い総数と伸び率  
 (2023年)46.3億個 → (2024年)46.8億個  伸び率 1.15%  
宅配便3社のECでの正味の伸び率  
(宅配便3社の取り扱い総数の伸び率)1.15%  ÷ (ECの比率)0.7 = 1.64%  
(宅配便3社以外を含む)EC市場全体での宅配便取り扱い総数の伸び率  
(宅配便3社のECでの正味の伸び率)1.64% → 全体では1.5%と推定  
- ― ― - ― ― - ― ― - ― ― - ― ― - ― ― 
出所:ヤマトホールディングス(ヤマト運輸):https://www.yamato-hd.co.jp/news/    
   SGホールディングス(佐川急便):https://www.sg-hldgs.co.jp/    
   日本郵便:https://www.post.japanpost.jp/newsrelease/
対象:ヤマトホールディングス(ヤマト運輸):宅急便・宅急便コンパクト・EAZY・ネコポス    
   SGホールディングス(佐川急便):飛脚便    
   日本郵便:ゆうパック・ゆうパケット

2024年のEC市場規模は約14.8~14.9兆円

では、Nint ECommerceを用いた3大ECモールの流通総額の伸び率1.25%、および宅配便取り扱い総数の伸び率1.5%をもとに、どこよりも速く2024年のEC市場規模を推計してみましょう。経済産業省発表の2023年のEC市場規模は14兆6,760億円です。これに1.25%、1.5%をそれぞれ掛け合わせてみると、14兆8,595億円、14兆8,961億円となります。つまり2024年のEC市場規模はこの範囲内となる可能性が高いということです。

2024年のEC市場規模予測    14兆8,595億円 ~ 14兆8,961億円

2023年までの過去3年の伸び率を見てみると、2021年は8.61%、2022年は5.37%、2023年は4.83%と徐々にその伸び幅が縮小しています。伸び率が下降トレンドとなっている状況下にあって、上述の通り2024年は2%を切る見込みが高そうです。2023年5月に新型コロナウイルス感染症が5類に移行し、社会が“アフターコロナ”状態となりました。これに伴い消費者のリアル回帰が進行し、百貨店売上高が急回復する等リアル店舗中心の小売業者は元気を取り戻しています。ECはそのあおりを受けていると考えられていますが、EC市場規模の伸び率の縮小がその証左とも言えるでしょう。

国内物販系BtoC-EC市場規模の推移(2024年は予想)

出所:2023年までは経済産業省電子商取引に関する市場調査 2024年は筆者推計

2025年は勢いを取り戻す年と予想

最後に2025年の展望について触れたいと思います。まだ2025年が始まったばかりですので予期は難しいのですが、結論から言えば、2025年のEC市場はやや勢いを取り戻す年になると、私は期待を込めて予想しています。先に述べたように、2024年のEC市場は前半不調であったものの、後半盛り返しました。そのプラスの流れが2025年は当面継続するのではとの予測が、やや勢いを取り戻すと考える根拠です。

ユニクロを展開するファーストリテイリングの2024年8月決算期の国内EC売上高は前期比で+2.3%と微増でした。しかしながら同社の2025年8月期の第1四半期(2024年9月~11月)のEC売上高は前四半期比較で+9.4%と急増しています。このことから、2024年後半はアフターコロナによる消費者のリアル回帰が一段落したのではないかと考えられます。その考えが正しければ、全国に約800店舗と巨大なリアルチャネル網を築くユニクロであっても、EC売上高が伸びている事象を説明付けることができます。

これから2~3年が経過して、あらためて過去を振り返った時に判断できることですが、EC市場の伸び率の点で2024年は“底”である可能性が高いと私は思っています。ECで商品を販売する事業者の方々は、自社の売上データやNint ECommerce等を通じた売上トレンド等を注意深くチェックすることが望まれます。2025年が反撃開始の一年となり、EC業界がさらに発展することを心から期待しています。

※留意点
本コラムはNint ECommerceおよびその他の情報リソースに基づいて予想しています。2024年のEC市場規模については経済産業省より本年夏頃(日付は未定)に公開されると思われます。同調査では様々な情報リソースを複雑に組み合わせて市場規模を算出しています。よって、本コラムの予想に近い値とならないことも考えられます。予めご了承ください。

以上

■調査概要・免責事項
・本調査は、Nint ECommerceを用い、国内の3大ECモールである楽天市場、Amazon、Yahoo!ショッピングを対象として調査しました。
・レポートを利用することにより生じたいかなるトラブル、損失、損害等について、当社は一切の責任を負いません。

■調査対象
Nint推計データ
Nint推計データは、AIやクローリングなどの技術により⽇本国内の3⼤ECモールで販売される商品の売上⾦額・販売数量を⾼精度に推計したデータに、サイト内でのプロモーションデータ等を加えた、EC市場の総合的な分析を可能にするビッグデータです。

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【出典:「本谷知彦連載第2回:【最速】2025年のEC市場規模予想 ~経産省EC市場調査の元責任者がNint ECommerceで推計~」(2025年1月31日公開)】
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